春は出会いの季節でもあります
- ジェイ奥村
- 3,487 views
目次
一つ目の出合いは、まさかの同じクルマ
MINI VANとのお別れがあったもの、春は出会いの季節でもあります。
先日、愛知県出張の折に立ち寄った“ガレージホームベース”。
英国車を中心とした欧州の旧い車を得意とする整備工場です。この日も代表の岡田さんはMG-B GTやアルファロメオ・スパイダーなどを整備中でした。
前回来た時(とは言っても数年前ですが)にはなかった在庫車があります。
うすく淡いみどり色に塗られたボディのツヤはなくなっているもの、全体的にシャキッとした印象のモーリス1100が数台の在庫車と共に並んでいます。
我が家の普段使いしているクルマたちのなかにも、同じモーリス1100があります。
1963年に正規輸入され翌年登録、ホンダ4代目社長だった川本信彦氏が所有していた時期もあり、リアウインドウにはホンダ和光研究所の入館ステッカーも残されております。
その後、2人のオーナーを経て、ワタクシのところへ来たのは、7年ほど前になりますが、前オーナーによりボディはフルレストア、ワタクシの所有となってからはエンジンもOHし、とてもよい状態です。
<ホンダ4代目社長川本信彦氏と>
ガレージホームベースさんの個体は、リペイントされているもの、厚化粧ではなく自然な経年変化を感じる対極の魅力があります。
浮きサビはあるもの、ヒストリックカーにとって大敵のボディの腐りも全くありません。シートは綺麗に張り替えられて気持ちよいですね。
ワタクシが興味深そうに覗いていると、岡田さんが、かかるかな?と運転席に乗り込みます。キーをオンにして電磁ポンプの作動音を確認、チョークを引き、キーを回すと、プルルンと、半年の眠りからモーリスは目を覚まし、白煙もなくスムーズにアイドリングを刻みます。
それですっかり、連れて帰りたいという、いつもの悪い癖が出てきました(笑)。
岡田さんに、このモーリスのことを聞くと、ご自身がいずれ乗ろうと思って仕入れたクルマだそうです。しかし、お客さんのクルマの整備が忙しくて、半年間放置してしまい、この先もまだ目処は立っていないので、お譲りしてもいいですよ〜、なんて言ってくれます。
そうして、3週間後、引き取りに行くと、先日見たときよりも、色ツヤが良いです。磨いていてくれたのですね。さらに、動かしてみると、リアのブレーキに引きずりがあったということで、ブレーキホースも交換してくれていました。
さすが誠実な整備が評判の岡田さんです。磨いてくれていたのもクルマ愛を感じますね!
そうして、“先住”の濃いのと、“新顔”の薄いグリーンの2台のモーリス1100が倉庫に収まり並べてみました。
まさか、同じクルマを買ってしまうとは、自分でも驚きます(笑)。
せっかくなので、この日は外装を少しコンパウンドで磨き、雨漏りによる運転席足元に浮いていたサビを除去。
赤サビから黒サビへと変換してくれるケミカル剤を塗布しておきました。
欠品パーツなどは無いようですが、先住のために買っておいた予備のパーツもあります。少しずつ、手を入れていくことにしましょう。
さて、このモーリス1100は衝動買いでしたが、出合いは、これだけではありません。実は計画していたもう1台があるのです。
もう1台は友人がずっと持っていたトライアンフ
ワタクシは23歳のとき、1960年製のオースティン・ヒーリー・スプライトに乗っていました。
その頃に知り合った樋口くんの愛車は、1963年製のTRIUMPH TR4。
同じくオープンエアを味わえる英国車ながら、ワタクシの948ccという小排気量のスプライトに対して、2138ccのTR4。
そしてモノコックに対してラダーフレームといった構造の違いもあり、対局とも言える立ち位置のオープンツーシーターです。
そしてなにより、ふた回りくらい年が上の先輩たちにはトライアンフ・ロードスター好きが多いことも、ずっと気になっていたのです。
長い間、TR4を楽しんでいた樋口くんでしたが、すこし前からはサルーンカーに目覚め?MG-ZBマグネットを入手、TR4はガレージで休息中でした。
乗っていないのだったら、譲ってもらいたいと打申し出たところ、ずっと手放せないでいたけど、キミが乗るなら喜んで送り出せるよと、それから1年後に、20年間大事にしていたTR4はワタクシのところへ来ることになったのです。
TR4路上復帰に向けての作業 1日目
5年間、ガレージで保管されていたTR4。まずはエンジン始動からはじめます。
週末、樋口くんのガレージに行くと、バッテリーは前日から充電器にかけられ準備万端です。
デストリビューターのキャップを外しポイントギャップの調整と接点を磨き、火花が飛んでいることを確認。キャブレターもフロートの固着を直し、詰まっているジェットを清掃点検します。
いよいよ、久々のお目覚めです。プラグを抜いてクランキングさせ、まずはエンジン各部にオイルを行き渡らせ、キーをひねります。長くクランキングさせますが、なかなかエンジンに火がはいりません。
キャブレターのフロート室はガソリンで満たされています。
そこでスパークプラグを外して火花を点検すると、4発とも火は飛んでいますが、すこし微弱なようです。
バッテリーチャージャーをエンジン始動モードにして再びトライすると、バラバラしながらも無事にエンジンに火が入り、ブリッピングにも応えてくれます。
エンジンは無事にかかることを確認できたもの、クラッチを踏んでもビクともしません。クラッチのマスターシリンダーを怪しみます。
Cクリップを外してアクセスすると、やはりマスターシリンダーのなかの、ピストンが固着しています。軽くハンマーでショックを与えてやりピストンを摘出。
樋口くんが買い置きしていたリペア用のカップに交換し、フルードでマスターシリンダーを満たしてエア抜きします。無事にクラッチも切れるようになりました。
TR4路上復帰に向けての作業 2日目
前回は無事にかかったエンジンですが、ガソリンが濃いのでしょうか。
ガレージは目が痛くなるような排気ガスだったので、キャブレターのジェットを変更しプラグも新品に交換。しばらくアイドリングさせていてプラグの焼け具合を確認すると、まあまあ良い燃焼のようです。
前回、発電されていないというワーニングランプが点灯していたダイナモは、樋口くんが前回の作業後にブラシを交換してくれており、バッチリ充電もされるようになっております。
そうそう、大事なことを教わっておかないと、不意の天候の崩れに対応できません。シンプルなスプライトと比較すると、なかなか面倒くさい幌の張り方を教わります。
そして、スリーポインテッドのヘッドライトは光軸が出ないので車検時に困ります。通常のガラスカットのシールドビームへと交換しました。冬眠前に交換したというエンジンオイルは当然綺麗なのでオッケーとしました。
友人の愛車を引き継ぐ
譲渡に必要な書類を双方が用意。そしてワタクシはお金も用意して、いよいよ引き取りです。神妙な面もちで長年手をかけ楽しんだ愛車に最後のエンジン始動を行う樋口くん。
いろいろな思い出を回想しているのでしょうね。
引き取りの帰り道に立ち寄ったのは江東区にある“VICTORY 50”。
そうハコスカでは有名なお店です。
代表の内田さんとは、ずっと昔から近いところをすれ違っていましたが、一昨年にアメリカ、ラグナセカでのヒストリックカーレースに、彼はメカニック、僕は記録カメラマンという立場で同じチームに参加。以降、仲良くさせてもらっています。
TR4を工場に入れて、登録のために、諸々の測定を行ってもらいます。
まずは排気ガスの調整です。車検時に計測する排気ガスの濃度ですが、このTR4は1963年製なので、CO(一酸化炭素)は4.5%以下、HC(炭化水素)は、1,200ppm以下と定められています。
これがクリアできないと車検は不合格。
COを下げれば、HCが上がり、もちろんその逆にもなり、厄介なのですが慣れた手つきで、COとHCをそれぞれ基準値以下に合わせてくれます。
さすが、普段からチューニングされたS20やL型エンジンを得意としている内田さんです。
引き続き、ライト光量と光軸、サイドスリップをすべて検査基準に調整してもらい、スピードメーターの誤差も計測し車検に備えてもらいました。
引き続き自宅でも整備をします
家の車庫に収めたTR4。リアのナンバープレートのライトが片方付きません。
バンパーに埋め込まれたライトは、テスターで調べると電球ではなくソケットの不良のようです。ソケットを外し、錆をクリーニングすると無事に点灯。
ちなみに、この日は、雪がちらつき気温も猛烈に低く震えながらの作業でした(笑)。
数日後、ブレーキフルードを確認すると量が減っています。
原因はリアのホイールシリンダーからの漏れのようです。ここからの漏れは、まあ想定内です。長時間動かしていなかったり、古くなるとゴムが劣化して漏れがあります。
ホイールの内側にはフルードが漏れており、ブレーキドラムを外すと、ブレーキシューもフルードで濡れています。いずれ新品を注文し交換しますが、とりあえず今はブレーキクリーナーで清掃。ホイールシリンダーやスプリングは消耗品として新品がトランクにあったので、それに交換します。
作業をしていたら友人の紀伊くんが遊びにきたので、手伝ってもらいます。そして、サイドブレーキのワイヤーも調整し、エア抜き作業。ついでに各部グリースアップし、ホーンが鳴ること、ワイパーの作動、ウオッシャー液が出るかの確認をして、車検準備完了です。
そうだ!もうひとつ忘れていました。
現代のクルマのバンパーは、ほぼボディと一体になっているので問題ありませんが、旧いクルマの場合、ボディとバンパーに隙間があります。
ウレタンのブロックを貼り付けて、車検の規則にある2センチ以下となるようにします。
実は以前、別のクルマの車検時に知らず、検査官から指摘されて、慌ててホームセンターに駆け込み、この部分の対策をしたんですよね。覚えておいてよかった(笑)。
いよいよ登録のため車検場へ
登録して車検証とナンバープレートを発行してもらうには、通常の車検と同じ検査が必要です。
ワタクシの住む地区の管轄である品川にある関東運輸支局へユーザー車検の予約をしてクルマを持ち込みます。自賠責保険は臨時運行許可(いわゆる仮ナンバーですね)に必要なので、すでに加入済みです。
登録に必要な印紙、証紙を購入し、書類添付、必要事項を記入します。そして、いよいよ検査ラインへクルマを持ち込みます。
検査ラインでは撮影禁止なので画像はなし。簡単に流れを説明しますね。
自身で車検を行うユーザー車検では、検査官のかたが、丁寧に手順を教えてくれるので、それに従い順番にスピードメーター、ブレーキ、サイドスリップ、排気ガス、ヘッドライト、車体下回り検査を行います。
ここで、一ヶ所問題発生です…。きっちりと調整を行ったはずのサイドブレーキですが、やはりブレーキシューにフルードが回っていたからでしょうか。掃除はしましたが、サイドブレーキテストで効きが弱いようです。
2度目の検査で無事にクリアしましたが、近々にシューの交換をしたいですね。
排気ガスや光軸などは内田さんの調整のおかげで問題なしです。整備に関しては問題なくクリアです。
そして次に、一時抹消していたクルマなので、専用のラインにて、クルマの寸法や重量などが、諸元の記載通りかどうかを測定。さらにはミラーでの後方視界の確認ができるかをチェック。
こちらもそれぞれ問題なく、無事に車検合格となり車検証とナンバープレートを発行していただきました。
オープンエアを楽しみます
ワタクシのクルマ&バイク仲間の麻田浩さんは、自転車、バイク、クルマのみならず、トラクターまで輸入しレストアの準備をしている生粋の乗り物マニアです。
半年くらい前に、長年所有していたモーガンプラス4をようやく登録しています。登録直後に乗せてもらったのですが、ウォーターポンプから、ガラガラ音が出ており、まだ本調子ではありませんでした。
少し前に、気になっていたところはすべて対策して、絶好調になっていたから、また試してみてよと言っていたので、訪ねてみました。
ちなみに麻田さんのお仕事はミュージシャンの招聘を行うプロモーター。無名だったトム・ウェイツを発掘したり、エルヴィス・コステロの初来日には銀座で路上ライブのデモンストレーションなど、数々の伝説を残しています。
昨年、それらを振り返った一冊“聴かずに死ねるか! 小さな呼び屋トムス・キャビンの全仕事”をリットーミュージックより出版。音楽好きな人にも、そうでない人にも楽しめるオススメの一冊です。
麻田さんの秘密基地にお邪魔すると、すでにモーガンは表に出されて暖気運転中、出撃体制が整っております。
手前にあるジレラのエンジンがまた興味をそそりますね(笑)。
ワタクシのTR4と麻田さんのモーガンは同じ2.1リッターのエンジンです。
ともに、キャブレターはウエーバーを装着しております。
ワタクシのトラはそこ以外がノーマルなのに対して、麻田さんのモーガンは1962年のル・マン24時間レースにおいて、モーガンをクラス優勝に導いたレーシングドライバー兼エンジニアのクリス・ローレンスの製作したマシンを模しています。
その心臓部であるエンジンもいわゆるローレンスチューンといわれるスペックとのこと。バランスが取れたエンジンの回転は軽やかです。
コックピットを覗くと、こちらも左ハンドル、北米輸出モデルがベースのようです。ベンチシートですが想像よりはサポートしてくれるそうです。ステアリング、ペダルともにTR 4よりも節度感があります。
そして、同じミッションを使っていますが、こちらもショートストロークになっていて心地よいですね。
とはいうもの、レースはともかく、一般道を走るには、どちらも個性の範疇。トルクフルなエンジンで、気がつけば、そこそこのペースになります。
その2台でのランデブーは理屈抜きに楽しいです。
楽しかったプチツーリング、しかし、この数週間後には、緊急事態発令からの外出自粛など、想像を超えた事態となりました。
夏まではベストシーズンですが、ツーリングはもう期待できませんね。
でも、いまは我慢の時期です。ステイホームで、収束されるまで、この動画を見て、気持ちよいドライビングを思い出すことにします。
みなさまも、どうぞご自愛くださいませ。
※取材は4月初旬に行われたものです。
関連記事
本業はフリーランスとして活動中のスチールカメラマン。愛車は1931年Austin Sevenから、1964年のFord Angliaなど、旧いクルマばかりを10台あまり所有し、日常生活はもちろんのこと、遠方への仕事にも使用。趣味のヒストリックカーレースでは、戦前車からスポーツカー、ツーリングカー、葉巻型フォーミュラーカーまで乗りこなす。そうした経験から自動車専門誌や、雑誌での特集記事などの執筆も行い、半年に一度、雑誌「The Vintage Wheels」の編集長として、旧い2輪車、4輪車の魅力を発信中である。
関連記事一覧
コメント ( 0 )
トラックバックは利用できません。
この記事へのコメントはありません。